飛行日誌

上村晋也

2003年5月4日 日曜日 RHV OVC30(Sky Condition 3000 feet Overcast )

5月だというのに、カリフォルニアの蒼い空は一体どこへ行ってしまったのだろう。何時もなら、澄み切った青空から切り裂くように降り注ぐ直射日光はとっくに山肌の緑を死滅させ、広大な地面を褐色で覆っている頃だ。今年の天気は牧草に心地よく、パイロットには辛い日々を送り込んでくる。イラク戦争にもめげず、高まるSARSの懸念を乗り越えて、ゴールデンウィークを利用し遥々遠征してきたパイロット仲間へ5月の空は何故気前よくあの青い笑顔を見せてくれないのだろう。

午後には晴れ間が覗くとの予報だが、ブリーフィングルームの窓からでも北東のミッションピーク辺りを今も黒い雲が包み込んでいるのが見える。Right 45デパーチャーでも、巡航は2500フィートが限度だろう。打ち合わせを済ませ、とりあえず行ってみようとの結論に、プリフライトを終えたサンダーナ2機が同時にランナップエリアに並んだのはもう16時を回っていた。先行機24Zの離陸を見送りながら、私の乗る49Pも間髪を入れずに送られて来たタワーの指示で滑走路31RにTaxi into positionを取り、離陸準備完了間も無く離陸許可を受け、24Zを追いかける。前方1マイル上空に24Zの後ろ姿が確認できる。Calaverasリザボアー上空に達するとヒンヤリと湿った空気が機内を緊張させるが、前方の白い雲の隙間から微かに明るい日差しが広がってるのが見え、ホッとした。タワーからラジオの切り替え許可を得て、周波数を 122.75にセットし24Zへ『ヘディング330、高度3千、デスティネーション、バイロンです!』私達サンダーナ2機の会話はまるで日本語。これは楽しい!!何時もの、ちょっと息苦しく感じて緊張を要するラジオ通信も、此の時だけは遠慮会釈なしに仲間同士の会話が楽しめるのだ。後続機は常に前方機を見失わぬように気を配れとはいえ、今日は経験豊富なパイロット(学生時代はグライダーをブイブイ飛ばし、日大にT君在りと言われていた)が搭乗者として横に座ってくれている。晴れ間が出て無限に広がった空でも、二人ならその姿を見失うこともない。『ヘディング360、高度3千維持』『 了解!』。24Zの方が幾分早いのか、すこしずつ間隔が広がっているように思えた。地図を辿ることもなく、あっという間に Byronに到着。『天気いいですなあ』との浮かれ会話もそこそこに、CTAF123.05に切り替えると『Byron Unicom Sundowner 24Z, Request Traffic Advisory』通常交信に切り替えている先行機、Nさんの声が飛び込んで来た。どうやら他にグライダーが2機トラフィックにいるらしく、空港をオーバーヘッドで通過し様子を伺うと、Rwy23の端に着陸したばかりのグライダーが2機翼を休めている。私達2機も揃って着陸したが、グライダーがパターンにいるとどうも勝手が違う。離陸しアップウィンドで注意払うと、またグライダーがレフト45から進入して降りてくる。彼等がRight of Wayだなと思いながら24Zへ‘危ないので場所を変えよう”と交信した。Tracy空港が近くにある。勿論、操縦し乍ら地図で確かめるのである。こんな時、2パイロット運行は実に楽なのだ。片方が地図から方角と距離を測りヘディングと高度を指示、もう一方がそれに従ってFly the Airplaneというわけだ。一人でしなければならない仕事を2分割すると‘飛行機もさほど難しい乗り物でもない”などと余裕を感じていた。また、考えてみるとTracyには初めて来たように思う。しかし、単独フライトで、行き先変更を上空で行うのは<大変>というのがパイロット全員の共通した感想だ。未だ、航法経験の無いスチューデントパイロットK Aさんを搭乗者に運行しているNさんに替わって、Tracyへは49Pが先導し、24Zが後続する形となった。
エントリーもスムーズに、空港は私達だけの貸し切り状態。初めての滑走路へ納得のいくランディングを決め、気分も爽快。『おっともう5時半だ、そろそろ帰ろう』 とリバモアを目指してRwy25をストレートアウト。UpWindで、周波数は122.75だ。先導は49P『 ヘディング260、高度3千よろしくー』『了解』と24Zが左後方へぴたりつく。普段では見慣れない並行飛行。24Zが空中に浮いている。じゃあこちらも浮いているんだという単純な発見に感動していた。No Relative Motionの他機から、離れるのが有視界フライトの鉄則。まさにそのNo Relative Motion機が、すぐ左後方を併飛しているのだ。思わず手を振っているあどけない自分がFormationのもう一機を操縦している。パイロット泣かせの空模様が続いた今週だったが、雲間を抜け今日は思いもよらぬ楽しいフライトを体験する事が出来た。